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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)3701号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人岡部秀温の上告趣意及び被告人加藤一司の弁護人清瀬一郎、同内山弘の上告趣意について。

所論各引用の各判例によれば、公職選挙法二二一条の罪又は同法一二九条違反の罪が成立するためには、特定の選挙に関し特定の候補者について、同法二二一条所定の行為又は不正の選挙運動が行われることを要する。故に将来の選挙に関する場合でも、その選挙の行われることが予想され、その選挙にある特定の人が立候補することが予期できる事情が存することを要するとする趣旨であることは論旨の主張するとおりである。しかし本件第一審判決挙示の証拠なかんずく松野孝一の検察官に対する供述調書によれば、松野孝一は昭和二七年三月末仙台農地事務局長を退官し、同年六月一三日改進党に入党し、今次総選挙に立候補する気に確定したのは八月二八日衆議院が解散になった直後であるが、立候補への気構は退官直後より動いていたというのであるから、第一審判決判示の事実は、松野孝一は、将来、同判示の衆議院議員総選挙の行われるべきことを予想し、その際には立候補すべきことを予期して居り、被告人らも右松野孝一が立候補することのあるのを予想して同判示の行為に出たとする趣旨であること明らかである。

又昭和二七年八月二八日の国会解散は、いわゆる抜打ち解散で予想できなかったし、議員の任期満了による総選挙は昭和二八年二月頃であること所論のとおりであるとしても、松野孝一が政党に加入し立候補の気構を有していたこと前記のとおりであるとすれば、次回の選挙まで、五、六ケ月の期間があるとしても、松野孝一及び被告人らはその次回の選挙即ち本件の総選挙を予想し、松野孝一の立候補を予期して本件行為をしたものというを妨げない。してみれば第一審判決の確定した被告人らの行為は、前記判例の趣旨に照らしても前記公職選挙法違反の罪を構成すること論をまたない。さすれば右第一審判決を是認した原判決の所論判断も、前記判例と同趣旨に出でたものと解すべく、原判決は判例と相反する判断をしたものとはいえない。論旨は理由がない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田 克)

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